“アフタヌーン・シー“で体験した、ナイティンバーという哲学。イングリッシュスパークリングの現在地

コム兄とワイン

先日、大阪で開催されたナイティンバーのメーカーズランチ「アフタヌーン・シー(Afternoon Sea)」に参加してきました。

今回のイベントは単なる試飲会ではありません。

英国で広がりを見せている新しい食文化を体験しながら、

イングリッシュスパークリングを代表する生産者である

ナイティンバー(Nyetimber)の哲学に触れる機会でもありました。

しかもフリーフローで堪能せていただきました。

最高。

開催されたのはザ・コスモポリタン。

グランフロント大阪の9階のテラスで行われました。

気候がとても良く、緊張と場違い感も相まって脇汗が止まりませんでした。

今回のイベントではアジア、中東地域セールス・グループ・ヘッドの

Denman Chan(デンマン・チャン)さんをスピーカーとしてお招きして開催されました。

聞くところによるとデンマンさんは現在マスターオブワインに挑戦中との事で、

これからは気軽に会えなくなるかもしれませんとの事でした。

今回はイベントの様子だけでなく、私自身が感じたこと、そしてイングリッシュスパークリングの未来について書いてみたいと思います。


私とナイティンバーの付き合い

私が初めてナイティンバーを飲んだのは2022年頃だったと思います。

ちょうどソムリエ資格を取得してすぐの頃。

当時はまだイングリッシュスパークリングというカテゴリー自体が今ほど知られておらず、

「イギリスでワイン?」

という反応も珍しくありませんでした。

しかし実際に飲んでみると印象は一変しました。

高い酸。

緻密な泡。

そしてシャンパーニュとはまた違う透明感。

その後、イギリスワインをテーマにしたワイン会で再びナイティンバーを飲む機会があり、

料理も担当させていただきました。

その時のレポートはこちらです。

イングランドワイン会のレポート
https://comnyblog.com/england-wine-nyetimber-danbury-ridge-tasting/

※歴史や受賞歴に関してもこちらに記載されておりますので今回の記事では簡単な紹介のみになります。

気になる方はリンク先からどうぞ。

さらにCircleをオープンしてからは、

お客様がナイティンバーのキュヴェ・シェリーを持ち込んでくださり、

一緒に楽しむ機会もありました。

またナイティンバーではないものの、

イングリッシュスパークリングはレギュラーでストックしていますし、

少ないながらもナイティンバーのクラシックキュヴェを在庫しています。

そんな経緯もあり、私自身イングリッシュスパークリングには以前から強い関心を持っています。


「アフタヌーン・シー」とは何か

今回のテーマは「Afternoon Sea」

アフタヌーンティーをベースにしながら、

スイーツではなくシーフードを主役に据え

スパークリングワインと楽しむという新しいスタイルです。

牡蠣。

ホタテ。

エビ。

ムール貝。

そこへイングリッシュスパークリングを合わせる。

しかも今回は日本ではまだローンチされていないというロゼの泡で乾杯。

最高すぎました。

言われてみれば非常に理にかなっています。

昼から楽しめる。

重すぎない。

気分が良い。

そして何よりスパークリングワインの魅力がよく分かる。

アフタヌーンティーをもじっているとは言え、

こちらの方が日本では流行るんじゃないかとも思いました。

港区女子なんかは黙ってないんだろうなと、可能性を感じるスタイルでした。

※ちなみに港区女子には出会ったことがありませんw


ナイティンバーとはどんなワイナリーなのか

ナイティンバーの歴史は非常に古く、

その土地は1086年のドゥームズデイ・ブックにも記録されています。

現在のワイナリーとしての歴史は1988年、

シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエを植樹したことから始まりました。

2006年には現オーナーのエリック・ヘレマ氏が取得し、

世界最高峰のスパークリングワインを造る

というビジョンを掲げています。

現在ではイングランドを代表する生産者として世界的な評価を受けています。

しかし今回印象的だったのは、その実績ではなく姿勢でした。


完璧主義という哲学

イベントで何度も感じたのは、

品質に対する妥協のなさです。

デンマンさん
デンマンさん

ナイティンバーは自社畑100%。

ブドウの購入は行わず、栽培から瓶詰めまで一貫して管理しています。

そして象徴的なのが2012年。

天候不順によって十分な品質のブドウが得られないと判断し、

収穫そのものを見送るという決断をしました。

品質基準を満たさないワインを造るくらいなら、そもそも造らないという選択です。

飲食店を経営する立場になった今だからこそ、その決断の重みが分かります。

売上を捨てる。

キャッシュフローを捨てる。

それでもブランドを守る。

言うのは簡単ですが、実際にやり切るのは本当に難しいことです。


シャンパーニュとは違う魅力

イベント中、

「シャンパーニュと何が違うのですか?」

という質問をぶつけてみました。

というのも、近年その実力を認められシャンパーニュと比較されることが増えてきていると感じたからです。

その上でポジティブな点を伺いました。

ブランドアンバサダーの回答は非常に印象的でした。

それは、

「同じものとして比較するのではなく、別物として見てほしい」

というもの。

確かに品種も製法も似ています。

しかし気候が違います。

その結果として現れるのが、イングリッシュスパークリング特有の酸の美しさです。

実際に今回も感じたのは、

温度が上がっても崩れない。

泡が弱くなっても美味しい。

液体そのものの完成度が高い。

ということでした。


なぜスティルワインを造らないのか

イベント後、個人的に気になっていたことを質問してみました。

それが、

「今後スティルワインを造る予定はあるのか」

ということです。

近年はイングランドでも高品質なスティルワインが増えています。

しかし返ってきた回答は非常に明快でした。

現時点では予定はない。

将来的な可能性は否定しないが、まずは世界最高峰のスパークリングワインを造ることに集中している。

というもの。

この回答に私は妙に納得しました。

多くのワイナリーがラインナップを広げる中で、

ナイティンバーは今なお

「スパークリングワインで世界一を目指す」

という一点に集中しているのです。


なぜピノ・ノワール100%を造らないのか

さらに興味深かったのが、

「ブランド・ノワールを造る予定はあるのか」

という質問への回答です。

これについても、

現状予定はない

とのことでした。

ナイティンバーで最もそれに近い存在がティリントン・シングル・ヴィンヤードですが、

こちらもピノ・ノワール比率は高いものの、必ずシャルドネをブレンドしています。

理由は明確でした。

ピノ・ノワール単体では、求める酸や果実味、全体のバランスに到達しないから。

つまり、

「造れない」

ではなく、

「今のイングランドで最高の品質を目指した結果、造らない」

という選択。

なんとも潔く、凛とした風格に似たものを感じました。


イングランドという産地の現在地

この話はイングランドワイン全体を考える上でも非常に興味深いものです。

現在のイングランドはシャルドネにとって非常に恵まれた環境になっています。

冷涼な気候。

長い生育期間。

高い酸。

チョーク質土壌。

スパークリングワインに必要な要素が揃っています。

一方でピノ・ノワールについては、まだ発展途上な部分もあります。

もちろん優れた生産者も増えており、今後さらに進化していくでしょう。

しかしナイティンバーは、

「今のイングランドが最も得意とする表現を極める」

という道を選んでいるように感じました。


ペアリングで見えた実力

今回の料理は牡蠣、ホタテ、エビ、ムール貝など魚介中心。

ある意味、王道の組み合わせです。

しかし王道だからこそ実力が分かる。

牡蠣や帆立などの白い食材にはクラシック・キュヴェ。

エビやムール貝などの赤い食材にはロゼが良く合っていたように思います。

カクテルソースや赤玉葱のミニョネットソースが美味しすぎて

ポケットに入れて持って帰りたいほどでした。

特にロゼは非常に印象的でした。

今年リリースされた限定キュヴェとのことですが、

果実味。

酸。

テクスチャー。

そのどれもが高いレベルでまとまっていました。

また小さなハンバーガーとの相性も秀逸でした。

パンの酵母香と熟成由来の香りが自然に重なり、スパークリングワインの懐の深さを感じさせてくれました。

これまでもリリースされていたマルチヴィンテージのロゼと比較で飲ませていただきましたが

限定キュヴェの方がよりフルーツフォワードで張りがあり、

マルチヴィンテージの方が熟成期間の問題もあるかもしれませんが

落ち着きがあって酸の力強さを感じました。

とはいっても私が感じる差なんて微々たるもので、どちらも美味しかったです(語彙w)


「これからの産地」だから面白い

ワイン初心者の方は、

「じゃあイングランドはまだ未完成なの?」

と思われるかもしれません。

しかし私はむしろ逆だと思っています。

ボルドーやブルゴーニュのような完成された産地の魅力もあります。

一方でイングランドは、

今まさに歴史が作られている産地。

どの地域が伸びるのか。

どの品種が本当に適しているのか。

10年後にどんなスタイルが主流になるのか。

まだ誰にも分かりません。

だからこそ面白い。

そしてナイティンバーは、その最前線を走る生産者のひとつです。

既に世界的な評価を受けながらも、

「まだ完成ではない」

という姿勢を持ち続けているんだろうなと思いました。


まとめ

なんか偉そうでごめんなさい

今回のアフタヌーン・シーは、単なる試飲イベントではありませんでした。

イングリッシュスパークリングの現在地を知り、

ナイティンバーというブランドの哲学に触れ、

そして飲食店として何を伝えるべきなのかを改めて考えさせられる時間でした。

品質は間違いなく素晴らしい。

しかし私が魅力を感じたのは品質だけではありません。

「今できる最高の表現に集中する」

という姿勢そのものです。

ワインは液体だけではありません。

その背景にある土地や歴史、生産者の哲学も含めて楽しむもの。

もしまだイングリッシュスパークリングを飲んだことがないなら、一度試してみてください。

きっと、

「イギリスでワイン?」

という先入観は、良い意味で裏切られると思います。

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