先日、モトックスさん主催の南アフリカワインセミナーに参加してきました。
今回のセミナーは白ワインが中心。
グラハム・ベック、ニュートン・ジョンソン、スターク・コンデ、カーショウ、サイン、マリヌーという、
個性の異なる造り手のワインを試飲させていただきました。
南アフリカのワインについては、以前から面白い産地だと思っています。
栽培環境の多様さがあり、ワインのスタイルも幅広い。
ニューワールドらしい果実の豊かさを持つものもあれば、旧世界を思わせる繊細さを感じるものもある。
そして全体として、品質の高さに対して真面目にワイン造りに向き合っている印象が強い産地です。
ただ、今回のセミナーを通して改めて感じたのは、
単に恵まれた環境や多様な品種があるから面白い、という話ではないということ。
それぞれの造り手が、自分たちの土地をワインに表現するために、異なる方法を選んでいる。
今回はそんなことを考えさせられるセミナーでした。
どんな内容だったのか気になりますよね。
という事で早速行ってみましょう。
ちぇけら。
ワインに求められる価値が変わってきている
冒頭では、リチャード・カーショウ氏から世界のワイン市場についての話もありました。
世界的にブドウ畑の面積が減少する一方で、

南アフリカでは大量生産のワインよりもプレミアムなワインの分野で存在感を高めている
という話が印象に残っています。

もちろん、安くて気軽に楽しめるワインにも価値はあります。
ただ、ワインを選ぶ理由が「おいしいから」だけではなく、
その土地でなければ生まれない個性や、造り手が何を考えてワインを造っているのか
という背景にも広がっているのだと思います。
そう考えると南アフリカの造り手たちが取り組んでいることは、
今のワイン市場の流れとも重なって見えてきます。
では、今回の生産者たちは、それぞれどんなアプローチをしているのでしょうか。
6人の造り手、それぞれのアプローチ
グラハム・ベック|ナイトハーヴェスト

まずは、南アフリカのスパークリングワインを代表する造り手のひとつ、グラハム・ベック。
今回のキーワードはナイトハーヴェスト。
つまり夜間のブドウ収穫です。
ブドウの収穫を夜間に行うことには、
低い温度を利用してブドウの状態を保ちやすくするという狙いがあります。
収穫のタイミングや扱い方も、最終的なワインの品質を左右する大切な要素です。

試飲した「キュヴェ・クライヴ 2019」は、さすがの品質だと感じました。
ただ、個人的には時間が経つにつれて、少しずつ活力が失われていくような印象もありました。
液体そのものが長く飲み手を魅了し続けるというより、
泡や香りが生み出す美しい時間を楽しむワイン、という感覚です。
とはいえ、価格に対するパフォーマンスは目を見張るものがあります。
いつまでもじっくり向き合えることだけが価値ではありません。
グラスに注いだ瞬間の華やかさや、その場を優雅にしてくれる力もまた、
スパークリングワインの魅力なのだと思います。
ニュートン・ジョンソン|アルバリーニョ
今回、個人的に特に印象に残ったのがニュートン・ジョンソンのアルバリーニョでした。
ニュートンジョンソンといえば個人的にピノノワールのイメージがあります。
そんな作り手がアルバリーニョを作るとどんな味わいになるのか。
興味しかありません。

アルバリーニョと聞くと、
スペインやポルトガルのフレッシュで生き生きとした酸や果実を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
今回のワインは、そうしたイメージとは少し違いました。

果実にはしっかりと成熟感がありながら、酸はきれいに残っている。
若々しさを前面に押し出すというより、落ち着きや品のよさを感じるスタイルです。
たとえるなら、すっぴんの初々しさというより、
年齢を重ねた大人の女性の美しさ、とでも言えばいいのでしょうか。
とはいえ、化粧で飾り立てるのではなく、素材そのもののよさが伝わってくるような印象でした。
どちらが優れているという話ではありません。
ただ、料理と一緒に楽しむことを考えると、
こうした成熟感のあるアルバリーニョはいろいろな可能性を感じさせてくれます。
今回の試飲の中でも、もう一度じっくり向き合いたいと思った一本です。
スターク・コンデ|ケープ・ブレンドで表現する土地
スターク・コンデで印象に残ったのは、ケープ・ブレンドによる土地の表現です。

複数の品種を組み合わせるブレンドは、それぞれの品種の長所を引き出すだけでなく、
組み合わせによって単一品種では表現しきれない個性を生み出す手法でもあります。
試飲したワインは、複雑さがありながら全体のバランスが非常によく、
どこか一つの要素だけが突出しているわけではありません。
だからこそ、ひと口飲んで「これがすごい!」と単純に言い切るのが難しい。
しかし、そのまとまりのよさこそが強みなのだと思います。

こうしたワインは、合わせる料理によって見えてくる表情も変わるはずです。
果実味や酸、タンニンなどの個々の要素を楽しむだけでなく、
料理と組み合わせたときに全体としてどう感じられるか。
料理人としては、そこに大きな魅力を感じます。
ワイン単体でも高い水準でバランスが取れているけど、食卓の中でさらに可能性が広がる。(気がする)
そんな意味で、非常に美食的なワインだと感じました。
リチャード・カーショウ|経験とAIを組み合わせたテロワールの表現
今回、造り手の技術という点で特に刺激を受けたのが、リチャード・カーショウ氏の取り組みです。

カーショウ氏は以前から品質の高さに信頼を置いている造り手ですが(しかもマスターオブワイン)、
今回驚いたのは、
ブドウ畑の区画や土壌、クローンなどの情報を分析するためにAIも活用しているという話でした。
セミナーでは、11の畑の区画と21のロットについての話もありました。
もちろん、AIがワインをおいしくしてくれるわけではありません。
大切なのは、どんなワインを目指すのかという明確なビジョンがあり、
そのために必要な情報を細かく分析し、最終的な判断につなげていることです。

畑の状態を見極める経験や感覚と、データによる分析。
そのどちらか一方に頼るのではなく、両者を組み合わせて理想とするワインに近づいていく。
料理の世界でも、経験を積んだ職人の感覚は大切です。
一方で、感覚だけに頼らず、温度や時間、食材の状態を理解することも欠かせません。
そう考えると、分野は違っても通じるものがあります。
職人の経験と現代の技術は、必ずしも対立するものではない。
むしろ、目指すものが明確だからこそ、技術を有効に使えるのではないでしょうか。
カーショウ氏のワイン造りからは、そんなプロフェッショナルとしての姿勢を感じました。
サイン|マルガスという辺境でのワイン造り
ド・トラフォード・ワインズさんのプロダクトであるサインの特徴は、
マルガスという南アフリカの中でも辺境といえる場所でワインを造っていることです。

ワイン造りにおいて、どこでブドウを育てるかは当然重要です。
しかし土地の個性を表現するということは、
条件のよい場所を選べば終わり、という話でもありません。
その場所に向き合い、そこで得られるブドウから何を引き出すのか。
サインはマルガスという場所でワインを造ること自体が、
ひとつの挑戦なのだと感じさせてくれます。

試飲した「サイン・ホワイト 2017」は、やや濃い色調が印象的でした。
ヴィンテージの影響もあるのかもしれません。
ストーンフルーツ(桃などのように大きな種がある果物)を思わせるフレッシュな香りに、
樽熟成からくるナッツのようなニュアンス。

派手さで押してくるタイプではありませんが、
要素が自然にまとまっていて落ち着いた品のよさを感じました。
個性をわかりやすく強調するのではなく、ワイン全体の調和の中で表現する。
そんな印象の一本でした。
マリヌー|古木が持つ可能性
マリヌーで注目したいのは、古木です。

長い年月を生きてきたブドウ樹はそれだけで価値があるというわけではありません。
古木を維持し、そこから得られるブドウをどうワインに生かすかという、
造り手の考え方が重要になります。
今回の試飲では、細かな香味をすべて記憶できているわけではありませんが、
クリーンな印象の中に、厚みや複雑さ、そしてフレッシュさが共存していたことが記憶に残っています。

深みがあるのに重たくなりすぎない。複雑なのに、どこか品よくまとまっている。
古木という言葉から想像する、ただ濃厚で凝縮したワインというイメージとは少し違う、
奥行きのあるスタイルだと感じました。
気候変動という、避けて通れない課題
今回のセミナーでもうひとつ印象に残ったのが、気候変動の話です。
南アフリカには冷涼な産地もありますが、そうした地域も気候変動の影響と無縁ではありません。
冷涼な環境だからこそ実現できていた酸の保持や、ブドウの成熟のバランス。
それらを今後も維持できるとは限らないのです。
これまでの経験や、長年培ってきた栽培・醸造の技術があるとしても、
環境そのものが変わっていくのであれば、造り手も変化に対応していかなければなりません。
品種の選択、畑の管理、収穫の判断、醸造の方法。
さまざまな場面で、これまでの常識を見直す必要が出てくるかもしれません。
ここで大切なのは、変化すること自体が目的ではないということだと思います。
自分たちが表現したいワインがあるからこそ、
変わりゆく環境の中で、その理想をどう実現していくかを考える。
今回の生産者たちの取り組みを聞いていると、
そんな姿勢が共通しているように感じました。(知らんけど)
最後に

今回のセミナーを通して改めて感じたのは、
南アフリカワインの面白さはひとつの正解に向かっていることではないということです。
夜間にブドウを収穫すること。
アルバリーニョの新しい表情を引き出すこと。
ケープ・ブレンドで土地の個性を表現すること。
経験とAIを組み合わせてブドウの熟度を見極めること。
マルガスという場所で挑戦を続けること。
そして、古木の可能性をワインに生かすこと。
それぞれのアプローチは違います。
しかし、その根底には
自分たちの土地を理解し、その土地ならではの個性をワインとして表現したいという思いがある。
同じ目的を持ちながら、そこへ向かう方法はひとつではない。
その違いが、南アフリカワイン全体の多様性を生み出している。
これが、今回のセミナーから私が受け取ったメッセージでした。(違うメッセージを発信していたのならごめんなさい)
そして、料理人としても刺激を受けました。
食材の個性をどう引き出すか。
素材の状態をどう見極めるか。
自分が目指す味を、どんな技術で実現するか。
経験や感覚を大切にしながらも、それだけに頼らない。
新しい技術や考え方も柔軟に取り入れながら、自分の表現を磨いていく。
ワイン造りから学べることは、ワインの知識だけではないのだと思います。
Circleでもワインの名前や産地を紹介するだけでなく、
その背景にある造り手の考え方や、料理と合わせることで生まれる発見まで、
お客様に伝えていけたらと思います。
「このワイン、なんだかおもしろいな」
そんな小さな発見が、次の一杯や、次の食事を楽しむきっかけになればうれしいですね。
やっぱりワインは奥が深い。
だからこそ、まだまだ勉強することが尽きません。
今回も、いい刺激をいただきました。
という事で今回はここまで。
ではまたッッ!!!


コメント