前回のエピソードでは、
いろいろな事柄が区切りを迎え、それに呼応するように静かに歯車が動き出したような感覚を綴りました。
そして迎えた地主さんとの面会の日。
人生の分岐点が近づいている。
そう感じながら地主さんとの面会に向かったのだった。
地主さんとの面会、そして一本のシャンパーニュ
同期会
面会前日の日曜日、創業スクールの同期会を初めて開催した。
仕事や家族の都合もあり、残念ながら全員集合とはいかなかったけれど、
ランチをしながらそれぞれの近況や考えていることをゆっくり話すことができた。
スクールの時にはなかなか話せなかったことや、事業のこと、
そして全く関係のない雑談まで。
とにかく「第一回目が開催された」という事実が何より大事だと思う。
せっかくの縁だから、2回、3回と、細く長く続けていきたいね。
そんな総意で解散した。
面会
そしてその翌日。月曜日。
いよいよ、元喫茶店の物件の地主さんとの面会の日がやってきた。
どんな結果になるかは分からない。
でも、その瞬間をちゃんと祝いたいと思った。
いやむしろ、うまく行かなかった時の精神安定剤として、家を出る前に一本のシャンパーニュを冷蔵庫で冷やしておいた。
ナポレオンの有名な言葉がある。
「勝利の時には飲む価値があり、敗北の時には飲む必要がある。」
どんな結果になっても、この一本には意味がある。
そんな気持ちだった。
その前に、まずは仕事終わりに子どもを学童保育に迎えに行く。
いつも通りの日常を挟んでから、地主さんとの面会へ向かった。
実際にお会いした地主さんは、穏やかな雰囲気の方だった。
ただ、その眼差しはとても真剣で、こちらをじっと見つめている。
時折談笑する場面もあったけれど、この土地を預ける相手を見極めようとしていることが、その視線から伝わってきた。
地主さんのご生家は天理教本部の近くにあったそうで、この街のことや教内の事情にもとても詳しい様子だった。
信仰しているわけではないそうだが、長くこの土地を見てきた人の言葉には重みがある。
店の内容や客単価の話にもなった。
「ただ一つ気になるのは、客単価ですね。」
地主さんはそう言った。
「この価格帯で、天理にお客さんが来るかなというのが少し心配で。」
それは正直な意見だと思う。
むしろ、この街のことをよく知っているからこその言葉だろう。
私も、その問いに対して自分なりの考えを伝えた。
ワインの敷居は下げたい。
でも店の品格は保ちたい。
背伸びする場所ではなく、背筋を伸ばして来てもらえる場所。
そんな店にしたいと思っていることを。
しばらく話をしたあと、地主さんはこう言った。
「私は、あなたに貸すことは良いと思っています。」
ただし、と前置きして、
「あとは元喫茶店さんとの話がうまくいけば、ですね。」
という形だった。
つまり、地主さんとしては了承。
あとは具体的な条件の調整という段階になった。
真剣な話を終え、帰り際に少し雑談をしていた時だった。
妻の父の話になり、名前を出したところ地主さんが少し驚いた表情でこう言った。
「昔、お世話になりまして。」
思わぬところで縁がつながっていたらしい。
「こんな縁があるとは思いませんでした。」
地主さんはそう言って、少し笑った。
さっきまで真剣な空気で話していた分、その言葉にどこか安堵のようなものも感じた。
最後にふっと肩の力が抜けたような、不思議な瞬間だった。
面会が終わり、帰路につく前に元喫茶店の方に第一報として方向性を伝えさせてもらった。
しばらくすると、元喫茶店の方から電話が入った。
「地主さんのお話を受けて、具体的に話を進めましょう。」
その言葉を聞いて、ようやく少し実感が湧いてきた。
まだすべてが決まったわけではない。
契約や条件の調整など、これから乗り越えなければならない壁はまだまだある。
それでも、確実に一歩前に進んだ。
今日はそのことを、家族と分かち合おうと思う。
帰宅して、冷蔵庫からシャンパーニュを取り出した。
グラスに注がれる細かな泡を見ながら、ナポレオンの言葉を思い出す。
今日はきっと、「飲む価値のある日」だ。
エピソード10に続く。


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